顧客が救急搬送された時、あなたに何が起きるのか——パーソナルトレーナーのリスクと保険の選択肢を整理

【重要な前置き】

本記事は2026年7月時点の情報をもとに作成しており、保険商品の内容・保険料・引受条件は変更される場合があります。実際の保険加入にあたっては各保険会社・資格団体・代理店の最新情報を確認し、専門家への相談を強くお勧めします。


「まさかそんなことに」では済まない時代になった

2025年11月16日、日本経済新聞の社会面に「個人指導 ケガの責任は パーソナルジム訴訟」という見出しが掲載されました。パーソナルトレーニングに関するトラブルが一般紙の社会面に大きく報道されたことは、業界関係者に大きな衝撃を与えました。

報道された事例の概要はこうです。46歳の女性会員がコロナ禍での体重増加をきっかけにパーソナルジムに入会し、約31万円を支払いました。複数回通った後のセッション中に異変を感じ、翌日に大腿部の激痛で救急搬送されました。その後、ジム側に対して損害賠償を求める訴訟に発展しています。JATIも「パーソナル指導やグループ指導を問わず、トレーニング中の事故で指導者が法的責任を負う事例が年々増えている」と明記しています。

技術を磨き、誠実に指導していても、トラブルが発生するリスクはゼロにはなりません。そのとき、何も備えていなければ、個人として数百万〜数千万円規模の損害賠償に直面する可能性があります。

参考:

  • 大阪パーソナルトレーナー養成スクール「パーソナルジム訴訟から学ぶ”信頼を守る対応”」https://gym-personal.com/7193
  • JATI「トレーニング指導者のための保険のご案内」https://jati.jp/news/detail.php?info_id=700

過去の訴訟事例から見える「責任の境界線」

実際の裁判例を参照することで、どのような状況でトレーナーの法的責任が問われるかを理解できます。

2026年2月に公開されたフィットネス法務専門の解説では、東京地裁の判例(平成26年6月13日判決)が紹介されています。会員がパーソナルトレーニング中に痛みを訴えたにもかかわらず、トレーナーからトレーニングを強制され腰椎椎間板障害等を発症・悪化したとして、2,013万5,993円の損害賠償を求めた事案です。この事例では、裁判所は「原告が痛みを訴えた事実をトレーナーが無視して強制したという事実は認められない」として請求を棄却しましたが、請求額の規模は個人トレーナーが単独で対応できるものではありません。

法律上の観点から整理すると、マンツーマンでトレーナーが指導を行っている場合、トレーナーは対象者の生命と健康を危険から保護するよう配慮する義務(安全配慮義務)を負います。また「利用規約に損害賠償には応じない旨を記載していたから大丈夫」という考えは通用せず、消費者契約法により事業者の過失に起因する損害賠償を全面免除する条項は無効となります。

参考:

  • BenFit「痛いと言われたらどうする?トレーナーの安全配慮義務を考える【判例解説】」https://note.com/benfit/n/n74a96e5897b0
  • フランテック法律事務所「スポーツジム・フィットネスクラブ トレーナー指導による怪我」https://www.frantech.biz/16123490881725

保険の選択肢:3つのルートを知っておく

パーソナルトレーナーが備えるための保険には、大きく3つのルートがあります。

①資格団体を通じた損害賠償責任保険

最も一般的な加入方法です。主要な資格団体が会員特典として損害賠償責任保険を提供しています。

JATIでは賠償責任保険と所得補償保険の2種類を提供しており、資格保有にかかわらず会員であれば加入可能です。賠償責任保険は指導中の責任が問われた場合の補償で、所得補償保険は病気やケガで指導ができなくなった場合の収入補償です。NESTAは賠償責任保険を会員特典として提供しています。JHCAも同様に賠償責任保険の加入機会を設けています。各団体の年会費・保険料は資格の種類や年齢によって異なるため、各団体に直接確認することが必要です。

施設によっては指導を行うにあたり事前の保険加入が必須条件になっているケースも増えており、レンタルジムを利用する際には確認が必要です。

参考:

  • JATI「トレーニング指導者のための保険のご案内」https://jati.jp/news/detail.php?info_id=700
  • mermake「パーソナルトレーナーの保険に入った方が良い?加入方法や保険の種類を解説」https://mermake.co.jp/blog/personal-trainer-hoken/
  • money-career「パーソナルトレーナーに損害保険は必要?加入方法も解説!」https://money-career.com/article/2803
  • 個人トレーナー資格「損害賠償に発展することも!パーソナルトレーナーが資格を取得するメリット」https://www.personaltrainer-capacity.com/license_data/proof_merit.html

②民間保険会社・代理店を通じた法人・個人向け保険

個人事業主としてパーソナルトレーナーを営む場合、保険代理店や保険会社に直接相談することで施設賠償責任保険や個人賠償責任保険に加入できます。

ただし注意点があります。火災保険の特約として加入できる個人賠償責任保険は、業務中の事故には対応していないケースが多い点です。個人として運動指導を業務として行っている場合は、業務に対応した商品を選ぶことが前提になります。具体的な保険会社・商品の選択については、スポーツ・フィットネス業界に詳しい保険代理店に相談することを推奨します。

参考:

  • hoken-room「事例あり・パーソナルトレーナーが加入すべき保険と損害リスクとは」https://hoken-room.jp/corporate-insurance/13759
  • mermake「パーソナルトレーナーの保険に入った方が良い?加入方法や保険の種類を解説」https://mermake.co.jp/blog/personal-trainer-hoken/

③ジム開業者向けのパッケージ型保険

テナント型でジムを開業する場合、施設賠償責任保険と火災保険(風水害補償付き)を組み合わせた形で加入するのが一般的です。実際にジムを経営するオーナーへのインタビューでは、「施設賠償責任保険と火災保険を中心に、特約をいくつか付けた」という構成が紹介されています。

個人情報漏洩保険(会員データ流出への対応費用)や休業補償保険(災害等で営業できない期間の損失補填)も選択肢に挙げられますが、小規模ジムでは必須かどうかは経営状況次第と言えます。

参考:

  • YUMO「パーソナルジム経営者が語る『保険の重要性』安定したジム運営のために必要な備え」https://tanafun.com/%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%BD%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%82%B8%E3%83%A0%E7%B5%8C%E5%96%B6%E8%80%85%E3%81%8C%E8%AA%9E%E3%82%8B%E3%80%8C%E4%BF%9D%E9%99%BA%E3%81%AE%E9%87%8D%E8%A6%81%E6%80%A7%E3%80%8D%E5%AE%89/
  • 株式会社アイランド「パーソナルジムの経営者が知るべき万が一に備える損害保険の選び方」https://island-n.co.jp/blog/management/personalgym-insurance/

フリーランスと独立オーナーで「保険の空白」が生まれやすい

ジムに所属している場合はジムの保険が適用されることが多いですが、フリーランスとして業務委託契約を結んでいる場合はジムの保険の対象外となるケースがあります。また副業として個人クライアントの指導を始めた瞬間に、その指導はジムの保険の適用外になる可能性があります。

自分がどの立場でどの保険の対象になっているかを確認することが、備えの第一歩です。

参考:

  • 東京パーソナルナビ「パーソナルトレーニングで怪我した時は保険は適用されるのか?」http://personal-navi.net/injury/

dotnow:記録と管理の体制を整えることが第二の備え

保険への加入と並んで重要なのが、会員ごとのヒアリング記録・既往歴・指導内容を管理できる体制を整えることです。万が一トラブルになった際、「この日にどのメニューをどう指導したか」「事前に身体の状態を確認した記録があるか」という証拠が、過失の有無を判断する重要な材料になります。dotnow(ドットナウ)は、フィットネス事業者向けの予約・会員・決済管理システムです。月謝の自動引き落とし・会員管理・予約受付が初期費用・月額費用0円のFreeプランから利用できます。会員情報を整理された状態で管理する習慣が、信頼される経営の土台であり、リスク管理の実践的な第二の備えになります。

詳細:https://dotnow.jp

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