米国は空きモール転用、日本は「併設」|ピックルボール市場で日本の事業者だけが取れる事業機会

米国では競技人口が3年で311%増え、市場の主戦場は用品から施設へ移った

ピックルボールを「アメリカで流行っているらしい軽いスポーツ」という認識で止めている経営者は、数字を一度見ておいたほうがいい。米国の競技人口は2022年の480万人から2,270万人へ、3年間で311%増えた。プレー国は78カ国に広がっている。

注目すべきは競技人口そのものより、年齢構成の変化だ。平均年齢は2020年の41歳から2026年には34.8歳まで下がり、35歳未満が全体の約40%を占めるに至った。当初はシニア層の健康スポーツとして広がったが、いまは若年層の可処分所得が流れ込む市場に変わっている。この転換が起きたからこそ、施設事業として成立するようになった。

供給側も動いている。米国のコート数は82,600面以上、前年比25%増。専門施設は2,500カ所を超えた。市場規模は米国単体で21億ドル(約3,200億円)、用品・機器市場はグローバルで2026年に37億ドル(約5,700億円)規模、年15%成長。世界市場全体では2025年の約130億ドル(約2兆円)から2030年に270億ドル(約4兆2,000億円)規模へ拡大するという予測が複数の調査会社から出ている。なお本記事の円換算は、2026年9月9日時点の1ドル=約154円、1ユーロ=約179円で計算している。

そして資金が入っている。パドルメーカーのSelkirk Sportは2026年1月に3,000万ドル(約46億円)を調達し、企業評価額は約2億ドル(約310億円)に達した。スポーツ用品のEscalade社は2026年第2四半期に純利益940万ドル(約14億円)を計上し、前年同期比422%増となった。プロリーグMLPのフランチャイズ価値は初期の10万ドル(約1,500万円)から1,300万〜1,600万ドル(約20億〜25億円)規模へ跳ね上がっている。ブームというより、資本が入って産業構造ができつつある段階だ。

参照 https://pickleballscorer.com/blog/pickleball-statistics-2026 https://pickleball.bz/articles/pickleball-money-report.html https://pikura.app/articles/pickleball-business-market

日本は認知率13.1%、競技人口33万人という立ち上がり局面にある

日本市場の数字は、株式会社ピックルボールワンが2026年3月に約30,000人を対象に実施したインターネット調査が最も参照されている。それによれば国内の競技人口は約33万人。前年の約4万5,000人から約7倍に増えた計算になる。

一方で認知率は13.1%にとどまる。同調査は「興味がある」と回答した潜在層を約1,189万人と推計し、現在の競技人口の36倍の成長余地があるとしている。この潜在層の数字は自己申告ベースなので相当に割り引いて読むべきだが、注目したいのは別の数値だ。既存のテニス経験者のうち72.5%がピックルボールに興味を示している。ラケットスポーツの経験者層が、そのまま流入予備軍になっている。

施設側の集計はメディアによって幅があり、262施設とするものから900施設超を掲載するデータベースまである。定義が揃っていないため断定はできないが、いずれの集計も前年から大きく数を伸ばしている点は共通している。市場規模については、用品・施設・レッスンを合わせて約20〜30億円、前年比プラス50〜80%という推計がある。

まとめると、日本のピックルボールは「認知は低いが興味は高い」という典型的な立ち上がり期の構造にある。認知率13.1%という数字は、裏を返せば普及施策の余地がまだ大量に残っているということだ。ただしそれは、いま参入しても数年は市場を自分で耕す必要があるという意味でもある。

参照 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000024.000133975.html https://pickle-one.com/research/2026-competitor-population/ https://www.ronshoal.com/pickleball/facilities

米国で成立している6つのビジネスモデル

米国の事例を整理すると、収益が立っているモデルは6つに分けられる。

  1. 屋内専用施設の運営
    8〜16面規模で初期投資は50万〜200万ドル(約7,700万〜3億円)。12面の屋内施設をモデルケースにすると、総初期投資80万〜150万ドル(約1億2,000万〜2億3,000万円)、月額賃料1.5万〜4万ドル(約230万〜620万円)、月間運営費3万〜6万ドル(約460万〜920万円)、コート表面の施工費が1面あたり8,000〜15,000ドル(約120万〜230万円)という構造になる。成熟後の月商は8万〜18万ドル(約1,200万〜2,800万円)、純利益率20〜35%が目安とされる。
  2. 既存施設の転用
    これが米国で最も勢いのある形だ。空きモールや閉店したビッグボックス型店舗を改装するモデルで、約2,300〜4,600平方メートル(およそ700〜1,400坪)の物件があれば8〜16面が取れる。ジョージア州のMacon Mallは元Belkのアンカー店舗を32面の施設に転用し、アリゾナ州テンペのPicklemallはArizona Mills Mallにある約9,700平方メートル(およそ2,900坪)のアンカースペースに24面を開設した。改装期間は100〜120日。新築より圧倒的に速く安い。改装コストだけなら5万〜20万ドル(約770万〜3,100万円)で済むケースもある。空き床を抱える不動産オーナー側にも、集客と周辺テナントの賃料交渉というメリットがあるため、条件交渉が成立しやすい。
  3. 複合エンターテインメント型
    コートにレストランとバーを併設する業態で、2018年にカンザスシティで始まったChicken N Pickleが代表例だ。全米12店舗以上に広がっている。Camp Pickleは商業不動産大手のSimon Property Groupから2億ドル(約310億円)の投資を受けた。この型の要点は、コート稼働率の変動をF&Bが吸収する点にある。ある試算では月商15,000ドル(約230万円)のF&Bで約10,000ドル(約150万円)の粗利が出るとされ、コートレンタル単体より利益率が高い。
  4. 会員制クラブのフランチャイズ
    Ace Pickleball Clubは加盟金60,000ドル(約920万円)、初期投資総額91万〜128万ドル(約1億4,000万〜2億円)、売上に対するロイヤルティ7%、広告分担金1%、システム利用料が月650ドル(約10万円)という条件を公開している。The PicklrやPickleball Kingdomも同種のモデルで、いずれも「会員制を先に立て、予測可能な収益を確保する」という設計思想を共有している。
  5. レッスンと大会の運営
    プライベートレッスンが1時間60〜120ドル(約9,000〜1万8,000円)、グループクリニックが1人25〜40ドル(約3,800〜6,200円)、リーグ戦がシーズンあたり100〜200ドル(約1万5,000〜3万円)、トーナメント参加費が50〜100ドル(約7,700〜1万5,000円)。施設を持たなくても始められる領域である。
  6. 用品・アパレル・メディア
    用品市場の内訳はハードウェアが48.5%を占め、そのうちパドルが約半分。プレイヤーが10〜12カ月ごとにパドルを買い替えるため、消耗品に近い購買サイクルが回る。専用シューズは年15.4%で最速成長中のカテゴリで、Nike、Adidas、Lululemonといった大手が本格参入している。

参照 https://www.reservewithrex.com/blog/how-to-start-a-pickleball-business https://www.nar.realtor/magazine/real-estate-news/commercial/pickleball-courts-serve-an-ace-for-vacant-malls-retail-stores https://pickleland.com/top-pickleball-franchises/ https://pickleball.bz/articles/pickleball-money-report.html

日本で立ち上がった直近事例は「単独開発」ではなく「併設」から始まっている

日本の直近事例を並べると、米国とは違う入り方をしているのがはっきり見える。

Sansan株式会社は東京・東池袋に「Sansanピックルボールコート池袋」を2026年7月上旬に開業すると発表した。屋内3面と屋外4面の計7面にトレーニング用ジムスペースを併設した全天候型施設で、同社調べで都内初の大型専用施設となる。特徴は運営動機だ。Sansanは社長室がプロジェクトを担当し、顧客招待やユーザーコミュニティイベントの場として使うことを明言している。コート事業単体の収益ではなく、自社のブランディングと顧客接点への投資として位置づけられている。同社は「コート不足が普及の障壁になっている」という認識も示している。

2026年9月9日には「PICKLEBALL PARK TOYOSU」が開業した。屋外ハードコート4面、照明完備で朝6時から夜22時まで営業する。事業主体は株式会社Mellow、企画運営は株式会社ピックルボールワン、協賛にTBSホールディングス、三井不動産、KINTOが名を連ねる。料金は1面1時間あたり平日6時〜18時が6,000円、平日18時〜22時が7,000円、土日祝が8,000円。立地は「THE DOG PARK TOYOSU」の敷地内である。つまり、ピックルボール専用に土地を仕入れたのではなく、既にある屋外施設の一部を使っている。

商業施設への導入も進んでいる。フレスポ若葉台のスポーツコートが1時間1,500円、ラウンドワン横浜が1,200円、イオンモール幕張新都心が1,800円、ゆめタウン博多が1,000円といった価格帯で、既存のスポーツコートやアミューズメント枠にピックルボールを載せる形が主流だ。商業施設側の狙いは滞在時間の延長とファミリー層の来館である。

この3パターンに共通するのは、単独でコート事業を成立させにいっていない点だ。既存の箱、既存の集客、既存の事業目的があり、そこにピックルボールを載せている。日本の土地単価では、屋外4面のためだけに用地を確保して回収するのが難しいという現実が背景にある。裏返せば、既存の遊休スペースを持っている事業者にとっては、参入コストが極めて低い領域だということでもある。

参照 https://jp.corp-sansan.com/news/2026/0128.html https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000028.000133975.html https://news.mynavi.jp/article/20260826-4866149/ https://pickleballjapanhub.jp/articles/shopping-mall-courts

面積あたり収益で見ると、テニスコートより有利になる

ここからは調査を踏まえた私見だ。ピックルボールの事業性を評価するとき、競技人口の伸びよりも先に見るべき指標がある。面積あたりの時間収益である。

ピックルボールのコートは13.41メートル×6.10メートルで、テニスコート1面のスペースに複数面を確保できる。豊洲の価格設定である1面1時間6,000〜8,000円をそのまま使うと、テニスコート1面相当のスペースから、同じ時間で数倍の売上が立つ計算になる。しかも1面あたり4人が入るため、利用者1人あたりの負担は1,500〜2,000円程度に収まり、テニスのコート代と大きく変わらない。

この構造が意味するのは、既にラケットスポーツ用の空間を持っている事業者が最も有利だということだ。テニススクール、体育館、屋上スペース、駐車場の一部、閉鎖したフットサルコート。こうした資産の面積あたり収益を、線を引き直すだけで改善できる可能性がある。米国で空きモールへの転用が加速したのも、突き詰めれば同じ理屈である。

もうひとつ、ラケットスポーツ事業者にとって見逃せない数字がある。テニス経験者の72.5%がピックルボールに興味を示しているという調査結果だ。これは新規顧客をゼロから開拓する話ではなく、既存顧客の来店頻度を増やす話として読める。テニスは天候と体力の制約で頻度が伸びにくいが、ピックルボールは負荷が軽く、短時間で成立し、初心者が同じコートに混ざれる。既存会員のオフシーズン対策としても機能する。

参入モデルを投資額と回収速度で並べ替える

多くの事業者は「専用コートをつくる」から発想するが、投資額と回収速度で並べ替えると、着手すべき順番は逆になる。

最初にやるべきは、既存スペースの時間貸し枠としての実験だ。ネットとラインテープ、パドルとボールを揃えるだけなら、数万円から数十万円で始まる。空いている時間帯にピックルボール枠を設定し、2〜3カ月稼働を見る。ここで埋まらなければ、その立地に需要がないというだけの話であり、大きな損失は出ない。

次が、体験会とレッスンの実施。認知率13.1%の市場では、コートを開けて待っていても人は来ない。初心者向けの体験会を組み、その場で継続レッスンに接続するのが唯一の現実的な導線だ。日本の相場はグループレッスンで2,000〜4,000円、プライベートで5,000〜10,000円。指導者を1人育てれば回り始める。

三番目が、常設化と会員制の導入。実験枠が埋まるようになったら、曜日と時間を固定し、月額5,000〜15,000円程度の会員プランを設計する。米国のフランチャイズがそろって会員制を先に立てているのは、コートレンタル単体では収益が天候と季節に振り回されるからだ。

専用施設の新設は最後でいい。日本ではまだ、単独採算で新規に土地と建物を確保して回収した事例が積み上がっていない。先行しているSansanも豊洲も、収益以外の目的や既存アセットを前提にしている。この段階で数千万円規模の設備投資に踏み切るのは、時期尚早と言うべきだ。

見落とされがちな3つの落とし穴

  1. 認知率13.1%という数字の重さを軽視しないこと
    競技人口が7倍になったという成長率は魅力的だが、母数は33万人しかない。商圏人口10万人の地域なら、単純計算で競技者は300人に満たない。潜在層1,189万人という数字を根拠に事業計画を組むのは危険で、実際に来る人数は「興味がある」と答えた人の数とは桁が違う。
  2. ラケットスポーツ特有の予約オペレーションの重さ
    1面1時間単位の予約、4人単位のグループ予約、用具レンタルの在庫管理、レッスン枠と一般開放枠の混在、当日キャンセルへの対応。これらが同時に走ると、コート数が少ないうちから管理業務が膨らむ。電話とLINEで受けていた予約が1日20件を超えた瞬間に、現場が回らなくなるという話は、この業態ではまったく珍しくない。
  3. コミュニティ運営を前提に設計されているかどうか
    ピックルボールはダブルスが基本で、1人では成立しない。参加者同士のマッチングが機能しない施設は、初回来場者が2回目に来ない。米国のフランチャイズがオープンプレイ枠やリーグ戦を必ず組み込んでいるのは、これが定着率に直結するからだ。コートを貸すだけの発想では、稼働率が上がる前に離脱が始まる。

新しい業態を試すときこそ、管理の仕組みを軽くしておく

ピックルボールに限らず、新しい種目やプログラムを既存事業に足すときのボトルネックは、たいてい集客ではなく管理側にある。枠が増え、会員種別が増え、単発利用と定期利用が混ざった瞬間に、予約管理と会員管理の手間が跳ね上がる。実験段階で管理コストに潰されると、需要があるかどうかを判断する前に撤退することになる。

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